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#4 𠮷村結実(N響オーボエ首席奏者)|自分を音楽の道に導いた大切な一節。

はじめてクラシック音楽の豊かさを教えてくれた曲、プロの音楽家を志すきっかけになった曲、壁にぶつかった時に立ち戻る曲。N響で活躍する楽員一人ひとりには皆、それぞれ大切にしている1曲があります。連載「あの名曲、この一節」では、毎回N響メンバーが思い入れのある曲の1フレーズを生演奏し、その曲にまつわるエピソードをお届けしていきます。
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第4回目はN響のオーボエ首席奏者、𠮷村結実さんにご登場いただきました。難易度の高い楽器といわれるオーボエ。その魅力について語っていただきます。

※このコンテンツは音声でもお楽しみいただけます。

<𠮷村結実の一曲>
モーリス・ラヴェル 《クープランの墓》メヌエット

《クープランの墓》は、《ボレロ》でも知られるフランスの作曲家モーリス・ラヴェルが1914年から1917年にかけて作曲したピアノ組曲。バロック時代の音楽スタイルを取りながら、第一次世界大戦で犠牲になった彼の知人たちを忍ぶ追悼曲と言われています。「管弦楽の魔術師」の異名を持ち、自身の楽曲はもちろんムソルグスキーの《展覧会の絵》など、多くのピアノ曲をオーケストラ用にアレンジしてきたラヴェルですが、このピアノ曲《クープランの墓》もオーケストラ用に編曲が施され、1920年2月28日にルネ・バトン指揮パドルー管弦楽団により初演されました。木管楽器に高度なテクニックを要求する《クープランの墓》。中でもオーボエのパートは最難関の一つと言われています。

オーケストラの音の渦に巻き込まれながら、いつも気持ちよく演奏しています。

これから演奏する曲は、ラヴェル作曲の《クープランの墓》よりメヌエットです。はじめてこの曲を生演奏で聴いたのは、パリに留学してすぐのことでした。実を言うと、それまでラヴェルの良さって正直よく分からなかったんです。でも、ラヴェルやドビュッシーなどいわゆる「印象派」の作品を、その本場であるフランスで聴いて本当に感動して。楽曲に宿る、豊かな色彩感や繊細さを肌で感じることで、自分自身が変わる大きなきっかけにもなった曲です。

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ラヴェルは「管弦楽の魔術師」とも言われているのですが、それぞれの楽器の扱い方がとても秀逸で、今聴いてもおしゃれなハーモニーを持った曲がたくさんあるんです。《クープランの墓》も、もともと「ピアノ組曲」として作られたのですが、ラヴェル本人によりオーケストラ用にアレンジされたヴァージョンでは、オーボエが全曲を通して非常に目立っています。

今回、演奏したのはメヌエットですが、冒頭のプレリュードからとても技術的なソロがあって、吹くときは本当に緊張するんです。もし、この曲がプログラムに入った演奏会が開催されると知ったら何ヶ月も前から準備に入ります。楽器の練習はもちろん、メンタル面のケアもしっかりして演奏会に臨みますね。最近だと、2021年1月にN響でこの曲を演奏する機会があったのですが、もう心臓が10個くらい欲しいと思うくらいドキドキしました(笑)。

この曲で最も難しいのは冒頭部分なので、そこを吹き切ってしまえば多少は気持ちが楽になります。今日演奏したメヌエットは楽曲の終盤に差し掛かっていますし、自分の気持ちもだいぶ落ち着いている頃なので、オーケストラの音の渦に巻き込まれながらいつも気持ちよく演奏していますね。

続けるうちに、どんどん技術が身についていくことが本当に楽しくて。

オーボエを始めたのは中学生になってからです。吹奏楽部に入部を決めた時は、実はまだオーボエというのがどんな楽器か全然知らなかったんですよ。母が好きだったらしく、「オーボエでいいんじゃない?」と言われるがまま第一希望に「オーボエ」と書いたらそのまま希望が通ってしまいました(笑)。

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オーボエは、吹口に差し込むリード(管楽器の発音体として使われる薄い板)が本当に繊細で、それによって音色もまったく変わってしまう難易度の高い楽器です。最初は音を出すだけでも苦労しましたが、続けるうちにうまく音が出せるようになるし、いろんなことがどんどんできるようになってくると本当に楽しくて。中高の6年間、ずっと吹奏楽部にいましたね。

知らない作曲家の演奏ほど観に行ってみてほしいです。

クラシックの演奏会にまだあまり馴染みのない方でしたら、まずは視覚的に楽しむのがおすすめです。例えば指揮者の動きだけに注目してみるとか、あるいはオーケストラの後ろの方にいる金管楽器奏者が、何をしているのかに目を凝らしてみるとか。そうやって自分の興味関心に従いながら、自由に楽しみ方を見つけてみてほしいです。

クラシックの演奏会は1年中いろんなところで開催されていますが、知らない作曲家の演奏ほど観に行ってみてほしい。私も初めはプログラムをチェックして、知っている曲がある時を狙って演奏会へ行くなどしていたのですが、留学中は時間が有り余っていたので、とにかく片っ端から観てみることにしたんです。そのときに今まで全く触れてこなかった現代音楽や、全く知らない作曲家の楽曲などを知って、世界がうんと広がったんです。そういう体験を、是非みなさんにも味わっていただきたいです。

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text / Takanori Kuroda photo / Hiromi Kurokawa


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