マガジンのカバー画像

ファビオ・ルイージ、「美」を語る。

4
2022年9月、NHK交響楽団は首席指揮者にファビオ・ルイージを迎えます。各国の一流オーケストラに客演するだけでなく、数々のオペラハウスでも実績を重ねるなど、交響曲とオペラの両輪… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

#4 美と音楽〜芸術は鏡。

音楽とは、「美」そのものである。「美」とはバランスだ。 ファビオ・ルイージがそう言うと、全てが腑に落ちる説得力を持つ。 初春の青空の下、輝きを放つチューリッヒ湖畔沿いのルイージ邸は、「美」というテーマに最適の佇まいだ。その歴史的な建物の威厳に気後れする気持ちは、暖色のセーターを着たマエストロが温かく迎え入れてくれた瞬間にかき消され、文化的遺産への忠誠心と彼の人間味をブレンドする「ルイージの美のバランス」が完成した。   それは彼の音楽作りと同じだ。解釈という言葉が嫌いだとい

#3 香りと音楽。それはいずれも、 “イメージ”からはじまる。

「香水の部屋」にお邪魔して音楽と並び、ファビオ・ルイージ氏が深い愛情と熱意を注ぐ分野に「香水」がある。氏のお住まい、チューリヒ湖を望む古い館の一角にしつらえられた「香水の部屋」に一歩足を踏み入れると、そこはまるで化学のラボラトリーのような眺め。壁一面の棚に大小様々のフラスコが並び、フックにはお医者さんのような白衣がかかっている。そして窓際のテーブルにはFL PARFUMSの名を冠した自作の香水のディスプレイ。世界を舞台に活躍するマエストロは、その多忙な日常の合間に、そもそもど

#2 パンデミック時代を生きる「美しい時間」と共に。

2021年夏。ファビオ・ルイージ氏をスイス・チューリヒのご自宅にお訪ねし、くつろいだ雰囲気の中で、楽しいお話を伺う機会に恵まれた。チューリヒ湖に面する古い館が氏の住まい。窓からはキラキラと青く光る湖面の先に対岸の丘陵が見渡せる。 「マスク、お外しになっても僕の方は構いませんよ。ちなみに僕も、そして妻も、ワクチン接種は済ませています」 コンサート会場でも街のトラム内でもマスク着用が義務づけられて久しい時期だったが、こうして対面で人と会って話す機会にマスクをどうするか、という

#1 コンサートホールでこそ、音楽はもっとも光り輝く。

友情と信頼を築いた、N響との20年間。―初めてN響と共演された時のことを教えてください。 ファビオ・ルイージ:初めてN響の指揮台に立ったのは、20年前の2001年でしょうか。私はまだ若手の指揮者で、東京のNHK交響楽団との初共演に臨むにあたり、当然ながらとても光栄で、胸が高鳴る思いでした。極めてすばらしい伝統を誇るオーケストラであることも知っていましたから。何より、このオーケストラとブルックナーの《交響曲第7番》で、つまり同オーケストラの卓越したドイツ系レパートリーの内の1